あの人に会いたい

薮崎友宏 南青山 Essense オーナーシェフ

中国料理は学ぶほど医食同源に向かいます。
健康の第一歩は旬の食材を食べること
薬膳の「天人合一(てんじんごういつ)」の思想を根底に据え、安心安全な食材にとことんこだわり、中国料理にありがちな化学調味料は一切使わないと決めた薮崎さん。薬膳中華を始めたきっかけと大切にしている食材の考え方について聞いた。

Profile
やぶざき・ともひろ/静岡県生まれ。横浜中華街「菜香新館」で修業を始め、菜香グループに15年勤務。2007年に「南青山Essence」を立ち上げ、翌年オーナーシェフに就任。2012年農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」第3回ブロンズ賞受賞。国際薬膳調理師、シニアソムリエ、ふぐ調理師免許、チーズプロフェッショナル、野菜ソムリエなど多くの資格を持つ。2019 年秋からベターホームのお料理教室講師としても活躍中。

その季節、その時季に身体が欲しているものを
「中国料理を学べば学ぶほど、皇帝の健康と長寿を支えた食養生、薬膳に行き着くんですよ」
薬膳には、人間は自然の一部であり、自然界の変化に応じて生きることが養生につながるという考え方がある。「天人合一」といい、その季節の旬の食材を食べることが、健康につながる第一歩なのだと薮崎さんは言う。
たとえば春は目覚めの季節。冬の間に溜まった体内の老廃物などを排出してくれるのが、春に芽吹く山菜の苦味だ。肝臓の働きを助けるクコの実やレバー、カジキマグロやクラゲなども、春におすすめしたい食材とのこと。薮崎さんの店では、1年を24に区分した二十四節気の暦を意識して、2週間に1 度メニューを変え、その時季に食べると身体と心が喜ぶものを提供している。薬膳というと特別で高価なイメージがあるが、「めったに食べられないのではせっかくの薬膳もその場限りです。身体にいい食事は毎日でも食べていただきたいから、とくにランチメニューは通いやすい価格にしているんですよ」

薬膳を勉強しろってことなんだろうな
そもそも薮崎さんが料理の道に進んだのは、ジャンルを問わない町の食堂だった実家を継ぐため。「和洋中、全部ひととおり覚えてこいと言われて」修業に出され、まずは中華を覚えるべく、横浜中華街「菜香新館」に就職。頑張る姿勢と料理の腕が認められ、23歳で菜香グループ最年少調理主任となり、26歳のときには立川店の料理長を任されるまでになった。ところがなぜかスタッフが次々と辞めていく。「料理には自信があったんですが、人をまとめる力やマネジメント能力がなかったんですね」

どうしたら足りない力が身につくのか。思い悩んだ挙句、当時最も注目され、業績を伸ばしていた居酒屋チェーンで働いてみることに。自分の店の営業を終えたあと、深夜にアルバイトをする生活が始まった。睡眠時間は毎日3時間ほどしかなく、85kgだった体重は1年で30kg近く減った。
「慣れたら元の体重に戻りましたけど(笑)。学ぶことが多くてすごく勉強になりましたね」

日本人ならではの料理を模索して、中国料理では使うことのないふぐ調理師の免許をとるために、夜な夜な和食店に通って猛特訓したこともあった。そんな薮崎さんが本格的に薬膳の勉強を始めたのは30歳になってからのこと。

「19歳のときに母が病で他界して、食べものと健康は直接リンクしている。それは身体だけでなく、心にも影響するのだということを強く感じていました。それで、全日本薬膳食医情報協会理事長と出会ったときに、『これは、薬膳を勉強しろってことなんだろうな』と思ったんです」

修業時代から同じ厨房で働く中国人たちが、「少し風邪気味だから」とか「秋は乾燥するから」などと言いながら、体調や季節に応じたスープなどを作って食べているのを見ていたし、店のメニューにも何種類かの薬膳スープがあった。生活実感のような薬膳知識が身についていたこともあって、吸収は早かった。31歳で国際薬膳調理師の資格を得たのち、33歳で独立。東京・南青山に「身体と心を癒やす中国料理」をコンセプトにした「Essence」を立ち上げた。

化学調味料は一切排除。自ら育てる新鮮野菜
「中国料理は食養生のすばらしい考え方がある反面、化学調味料をけっこう使うんです。その矛盾から抜け出すために、自分でお店をやろうと決めました」
いい食材にとことんこだわり、新鮮で安心安全だと胸を張れる肉や魚介類を仕入れるのはもちろんのこと、縁あって栃木県足利市にある1500坪の農園で野菜やくだもの、薬草を育てるようにもなった。毎週出向いて自ら耕し、収穫しているからこそ「旬」も細かく見定められる。ハシリの野菜もウラナリの野菜も、その時季ならではの食材だ。畑の近隣のワイナリーから出るぶどうのしぼりかすを餌に育てた足利マール牛は、食材であると同時に、畑に堆肥を提供してくれる大切な存在でもある。地域に根ざした循環型農業に貢献していることを評価され、「料理マスターズ」も受賞。料理に畑仕事に学びの時間にと相変わらずの忙しい日々が続くが、「薬膳で自分の体調管理ができるから、『今日は調子が悪い』とは言えないんですよね」。

少年のようなつややかな肌で朗らかに笑う薮崎さん。薬膳の効果を見事に体現していた。

額装は「料理マスターズ」副賞の和包丁。
受賞や資格取得で授与されたバッジは現在10個。まだまだ学びは続いている。
毎週足利の自家農園で自らも循環型農業に汗を流すシェフ。 足利マール牛と自慢の野菜のとり合わせは絶妙。

 

南青山 Essence(エッセンス)
東京都港区南青山3-8-2 サンブリッジ青山1F
TEL:03-6805-3905 不定休
昼11:30~15:30(L.O.) 夜18:00~22:00(L.O.)
https : //essence.tokyo/
※外部のウェブサイトにつながります

※表示の情報は掲載日時点の情報です。掲載した時点以降に変更される場合もありますのであらかじめご了承ください。

撮影/ノザワヒロミチ 文/長井亜弓
※当ページのコンテンツは、ベターホームのお料理教室の受講生の方のための会報誌「Betterhome Journal」2020年3月号掲載の内容を、Web記事として再掲したものです。

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ベターホームのお料理教室の受講生向け会報誌「Betterhome Journal」

「おいしいって、しあわせなこと。」をキャッチフレーズに、 料理レシピや食についての情報を掲載しています。2020年3月号の特集は「いち、に、サンドイッチ」。サンドイッチは、パンに具をはさむだけで気軽に食べられるシンプルディッシュ。でも、ちょっとしたコツを知っておくとできあがりのおいしさは段違い!3つのポイントを押さえ、“ いち、に、さん!” と楽しく作りましょう。

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