あの人に会いたい

石井幸造 MSC(海洋管理協議会)プログラム・ディレクター

ロンドンやリオに続いて2020年東京五輪でも「海のエコラベル」がついた持続可能な水産物を選手村などで使用する方向で準備が進んでいる。世界の海の今を、MSC日本事務所の石井さんに聞いた。

Profile
いしい・こうぞう/MSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)日本事務所プログラム・ディレクター。水産大学校(現・国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産大学校)卒業後、食品会社勤務を経て、米国・インディアナ大学大学院で環境政策学や自然資源学を修了。途上国の開発プロジェクトなどに携わったのち、2007年より現職。「サステナブルな魚以外は食べない」をモットーに活動中。
https://www.msc.org/jp ※外部のウェブサイトにつながります

魚たちと海を守る MSC「海のエコラベル」
「日本は世界第三位の魚消費国です(※)。売場にたくさんの魚介類が並んでいるので、消費者にはまだあまり実感がないかもしれませんが、実は世界の魚の数は1970年ごろと比較して、半減しているんですよ」
石井さんが所属するMSC(海洋管理協議会)は、サステナブル(持続可能)な漁業の普及に取り組む国際的な非営利団体で、本部はロンドンにある。
水産資源の減少の大きな要因になっている魚の獲りすぎ(過剰漁獲)や違法操業、ダイナマイトの使用といった破壊的な漁業などをなくし、すべての漁業が持続可能になっていくための活動をしている。そのための第一歩が、漁業者に環境に配慮した漁業を行っている証である「MSC 認証」を取得してもらい、水産物に「海のエコラベル」をつけてもらうこと。そして、そのラベルのついた水産物を消費者に選択してもらうこと。世界中の人々が濃い青に白い魚体が描かれた「海のエコラベル」がついた商品を「選ぶ」ようになれば、持続可能でない漁業で獲られた魚は市場から締め出され、やがて姿を消す。海の資源や環境を守るべく適切な操業を行っている漁業者を応援し、海の豊かさを守ることにつながるのだ。
「尾から背中にかけてのラインはチェック済みのマークです」と石井さん。見ればなるほど、そんな意味があったんだ!
(※)主要国・地域の一人当たり消費量(年間)

海から食卓に届くまでのサプライチェーンのすべてを追跡できるように、MSCの「CoC」という管理システムの認証を取得した事業者が扱うもののみに、「海のエコラベル」を貼ることができる。

きっかけは漁場の崩壊 海は無尽蔵ではなかった
MSC の設立は、カナダ・グランドバンクスのタラ漁場が1992年に閉鎖されたことに端を発する。資源枯渇による漁場の崩壊で、400以上の沿岸地域の3万5千人もの漁業者と工場労働者が一気に失業した。伝統的なはえ縄漁から底引き網漁に転換し、数十年にわたる過剰漁獲で根こそぎ獲ってしまったことが原因だった。
「ずっと適切に獲ってさえいれば、魚は再生可能な資源なんですが、獲りすぎて一定以上減ると一気に減少し、回復まで非常に時間がかかるんです」
豊富にあると思っていた水産資源は、決して無尽蔵ではなかった。このできごとをきっかけに、タラを仕入れていたユニリーバ社とWWF(世界自然保護基金)がMSC の構想を発案。300名を超える世界中の科学者、研究者および各種団体との18か月にわたる国際協議の末にMSC の規格が定められ、本格的な活動が始まった。石井さんがこの活動を知ったのは2006年。途上国の開発プロジェクトなどに携わっていたころのことだ。
「調べものをしていて、たまたまMSC のウェブサイトを見つけたんです。押しつけではなく、みんなで持続可能な仕組みを広げていきましょうという制度だったのでこれはいいなと思い、さらに読んでいくと日本人スタッフ募集中。もう僕しかないと思って応募しました(笑)」
そして翌年、たった一人で日本事務所を立ち上げたのだ。それから12年、スタッフは7名に増えた。2019年11月末現在、認証取得漁業は世界417件、日本国内5件。審査中は世界102件、日本国内2件。「海のエコラベル」のついた製品は世界4万品目以上、日本国内846品目がすでに流通し、夏に開催される東京五輪でも選手村でMSC 認証のシーフードが提供される。

第一歩はまず「知ってもらうこと」。子ども向けのミニ絵本も制作。毎年「サステナブル・シーフード・ウィーク」なども開催している。

気づいたときが始まりのとき
太平洋のクロマグロやニホンウナギが絶滅の危機にあることはずいぶん前から騒がれている。2017年ごろから秋の味覚の代表格のサンマも満足に獲れなくなった。スルメイカの漁獲量も減少し、北海道のシロザケ、駿河湾のサクラエビも厳しい状況にある。
「世界の水産資源が危機的な状況であることは知っていただきたいのですが、食べてはいけないのではありません。ただ、選んでいただきたいんです。海のエコラベルはそのための目印。知って、選ぶことも、海を守る貢献の一環です」
たとえば、「絶滅したらもう食べられなくなるから今のうちに食べておこう」なのか、「回復するまでしばらく控えよう」なのか。水産資源の将来を決めるのは私たちの心がけひとつ。
「このカツオのネクタイピンは、認証を取得した漁師さんからいただいた僕の宝物です。その方の一本釣り漁への誇りと魚に対する愛情に胸を打たれました。現場の熱い思いを忘れない証として、大切にしているんですよ」 

漁師さんの魚愛がつまったネクタイピン。

撮影/ノザワヒロミチ 文/長井亜弓
※表示の情報は掲載日時点の情報です。掲載した時点以降に変更される場合もありますのであらかじめご了承ください。
※当ページのコンテンツは、ベターホームのお料理教室の受講生の方のための会報誌「Betterhome Journal」2020年2月号掲載の内容を、Web記事として再掲したものです。

ベターホームのお料理教室の受講生向け会報誌「Betterhome Journal」

「おいしいって、しあわせなこと。」をキャッチフレーズに、 料理レシピや食についての情報を掲載しています。2020年2月号の特集は「腕まくりパスタ & お手軽パスタ」。3人に1人が週に1回食べているというパスタ。ちょっぴり手間をかけますが作りがいのあるソースが決め手の「腕まくりパスタ」と、経済的で手近な材料を使った時短レシピの「お手軽パスタ」を紹介します。暮らしのシーンに合わせて、お楽しみください!

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