あの人に会いたい

タチヤーナ・クジコーヴァ ロシア料理研究家

ロシアには家庭料理の料理教室はありません。
母を手伝いながら自然に覚えました
来日して19年。タチヤーナさんが受けもつロシア料理のクラスはいつも満員御礼の人気ぶり。
日本でロシア料理教室を始めることにしたわけとロシア文化について、聞いてきた。

Profile
タチヤーナ・クジコーヴァ/ロシア料理研究家。来日19年目。横浜と自由が丘でロシア料理教室「タチヤーナの台所で」を開催するかたわら、ベターホームでも時々1日教室を担当している。フードコーディネーター、モデル、合唱団指揮者、ロシア語講師など多方面でも活躍中。料理が縁結びの機会になればと、2019年3月から「料理教室合コン」を度々開催している。2020 年の2月にベターホームでビーフストロガノフの教室を開催予定。https://russiancooking.net

ロシアの音楽家の卵が日本でロシア料理家に
5歳からピアノを始め、音楽家を目指して学んでいたタチヤーナさん。卒業したものの、音楽で身を立てるのは難しい。将来を模索する中で出会ったもののひとつが日本の文学だった。
「母が図書館司書で、ロシア語に翻訳された日本の文学をたくさん紹介してくれたんです。谷崎潤一郎や松本清張など、面白くていろいろ読みましたよ」

今も大切に持っているというロシア語版の本を見せてもらうと、「こたつ」「足袋」などの日本語がキリル文字表記になっていて、欄外に注釈がついている。
その説明にも興味を持ち、日本語を学ぶことにしたのだそう。通信教育で学び始め、当初は6か月の語学留学の予定で来日したが、就学ビザを更新して2年学び、日本語能力検定2級を取得。その後、調理師専門学校の和食コース(2年)に入学した。
「もう少し何か学びたいと思っていたときに日本料理と出会い、盛り付けや色合いの美しさに惹かれて、進学を決めました」

卒業後、調理師免許は取得したが、憧れの日本料理店への就職はビザなどの関係で断念。
「だったら自分で始めよう!」と決めた。タチヤーナさんのロシア料理の教室がスタートしたのは2004年3月。来日から4年の月日が流れていた。

おいしいボルシチは結婚を左右する鍵
ロシアにはロシア料理を教える料理教室はないという。家庭料理は母や祖母から受け継ぐもの。だからロシアの女性たちは教わった料理をメモしたレシピノートを作り、自分なりの工夫や新たに教わったコツなどを加えていく。書き溜めたノートはタチヤーナさんの宝物だ。
「ボルシチとひと口にいっても、家庭ごとに味が違うほど作り方はいろいろ。おいしいボルシチが作れないと結婚できないといわれるほど大切なんですよ」

今日もこのあとボルシチを仕こむ予定なのでと言いながら、オーブンからアルミホイルに包まれた塊をとり出すタチヤーナさん。ホイルを開くと皮つきのビーツが湯気をたてて現れた。赤く艶やかに光る蒸したてのビーツはほんのり甘い。完成したボルシチはさぞおいしいだろう。タチヤーナさんのクラスの人気の秘密が、わかる気がした。

ホイルに包んで蒸し焼きにしたビーツ。ゆでるよりも色よく仕上がり、味も抜けない。

料理をふるまう習慣が伝統の味を伝えていく
ロシアのクリスマスは旧暦のため1月7日に厳かに祝う。だから12月25日は何もしない。12月後半から1月にかけて「ヨールカ」と呼ばれるもみの木が飾られるが、これは新年のための飾りつけ。サンタクロースに似たジェド・マロース(寒さおじいさん)は孫のスネグーラチカ(雪娘)を連れ、大晦日の夜に子どもたちにプレゼントを届ける。「大晦日には自宅に人を招いて夜通しわいわい騒ぐので、まずはサラダを何種類もたくさん作っておくんです。定番は『シーウバ』(外套を着たニシンの意)、『オリヴィエサラダ』(角切りの肉や野菜のマヨネーズあえ)、『ヴィネグレット』(ビーツのサラダ)などですね。『ペリメニ』(ロシアの水餃子)も大量に作りますし、『ハラジェッツ』(肉の煮こごり)や鶏の丸焼きも欠かせないごちそうです」

小さいころから、母を手伝いながらこうした料理を覚えていくので「ロシアの女性はみんな料理上手ですよ」とタチヤーナさんは胸を張る。

新年を迎える食卓は大ごちそう。皆でわいわい過ごし、0時にシャンパンを開けて乾杯する。

都市で暮らす人の多くが「ダーチャ(郊外の別荘)」をもち、週末や休暇には喧騒を離れ、ゆったりとした田舎暮らしを楽しむ。
タチヤーナさんのレシピノートの一部。びっしりの日本語表記は料理学校時代のノート。

家族も人も料理を通じてつながると思うんです
一緒に過ごすひとときがみんなの絆を深めます
週末は「ダーチャ」と呼ばれる郊外の別荘で、野菜を育てたり、ベリー類を摘んでジャムを作ったりしながらゆったり過ごす。友人が集まる際も基本は家での手作り料理。ロシアには、昭和の日本にもあった季節や隣人と寄り添う暮らしがまだまだ残っている。

「家族も人も料理を通じてつながると思うんです。自宅に人を招く習慣のあるロシアでは、結婚したら必ず12人分ぐらいの立派な食器セットを買うか、プレゼントされるんですよ」

撮影/ノザワヒロミチ 文/長井亜弓

※当ページのコンテンツは、ベターホームのお料理教室の受講生の方のための会報誌「Betterhome Journal」2019年12月号掲載の内容を、Web記事として再掲したものです。

ベターホームのお料理教室の受講生向け会報誌「Betterhome Journal」

「おいしいって、しあわせなこと。」をキャッチフレーズに、 料理レシピや食についての情報を掲載しています。2019年12月号の特集は「年末年始の作りおき」。家族や友人たちと集まって食事をすることが多い季節。こんなときこそ、作りおき料理が役立ちます。忘年会を盛り上げる目先の変わったひと皿や、おせちと一緒に並べたい和食など、作っておけば大助かりのメニューをご紹介します。

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