あの人に会いたい

近藤惠津子 NPO法人コミュニティスクール まちデザイン理事長

おいしく楽しい食は人生を豊かにします。
食べることを決してないがしろにしないで
オリジナルの食育プログラムを考案し、小中学校への出張授業や市民講座などの活動を通して日本人の「食」のあり方を発信し続けている近藤さん。未来のために「今、私たちができること」を聞いた。

Profile
こんどう・えつこ/ NPO 法人コミュニティスクール(CS)・まちデザイン理事長。長年携わってきた生協の活動を通して、生産のあり方に配慮できる消費者の育成を志し、生活クラブ生協東京副理事長在任中、2002年に「コミュティスクール(CS)・まちデザイン」を設立。食をテーマに、小中学校での授業や「まちデザイン市民講座」の実施など幅広い活動を行っている。生活クラブクッキングスタジオ・BELEマネージャー、加工食品診断士。

「食の向こう側」を知るのがおもしろくて
「生活クラブ生協に加入したのは、友達ができるといいなという思いからでした。当時は個別配送のシステムはなく、すべて班単位の共同購入でしたから、引っ越してきたばかりのなじみのない土地に、知り合いができてうれしかったんです。〝食の安全〞といった視点は全くなかったですね」と笑う近藤さん。

最初から積極的に関わっていたわけではない。順番で班長役などが回ってくるうちに、「食の向こう側」にある世界を知るようになった。そして、なたね油の生産者の「自分も使うものだから、やっぱり安心して食べたいんだよ」という何気ないひと言が、食の安全性に目を向ける最初のきっかけになった。食品添加物がすべて悪いというつもりはないが、その生産者は安心して食べられる油を作ろうと、添加物を使わない手間暇かかる方法を選択した。その心根に胸を打たれたのだという。
さらに、遺伝子組み換え作物の出現が、近藤さんが本格的に「食のあり方」に取り組む大きな契機となった。
「国は大丈夫だというけれど、一消費者として〝いやだ〞と思うなら、食べなくてすむ方法がないと。選択するためには表示が必要。選んで食べる大事さを強く思うようになりました」

フードマイレージを上げる「見えない輸入」
小中学校などで「総合的な学習の時間」が新設されたのを機に、近藤さんは生活クラブ生協関連の仲間たちと、子どもたちを対象にした食育プログラムを考案し、出張授業を始めた。

たとえば、導入の『どこから来るの? 私たちの食べもの』では、「チキンカレーとサラダ」など、身近なメニューの食材を集める「買物ゲーム」からスタート。授業はさらに、その食材がどこから来たのか、フードマイレージや食料自給率のこと、食品添加物の問題、地球環境問題や食の未来へと広がり、さまざまな気づきに発展する。

「日本は、『食料の輸入量 × 運ぶ距離』で表されるフードマイレージが世界一・二位の国。2018年度の食料自給率はカロリーベースで37%と、相変わらず食品の多くを輸入に頼っています」

フードマイレージを下げる地産地消の取り組みがようやく定着し、スーパーでは地場産の食品も目立つようになってきた。ところが改めて輸入量の数値を見ると、飼料や加工食品となって消費される「見えない輸入」の量が圧倒的に多いことがわかる。輸入量は決して減ってはいないのだ。

それでも、それに「気づく」ことが大事だと近藤さんは言う。「無意識に食べていた状態から、ちょっと意識して食べる、買う。それを一人ひとりが実践することで変わってくると思うんです」

食は本来楽しむもの 小さな工夫で達成感
また、地産地消も大切だが、「まずは捨てないことを意識してほしい」と近藤さん。なぜなら、目の前の食べものを捨てることは、それを作るための資源やエネルギーを全部捨てること。もったいないのひと言では表せないほどもったいないのだ。

「でも大根を煮るのに皮まで丸ごと、というのはちょっと違うかな。皮はむいたほうが筋っぽくなく、おいしいですよね。その代わり、皮は刻んでおみそ汁にしてもいいし、塩でもんで即席漬けにしてもいいでしょう?」

ちょっとの工夫で無駄をなくす、そしておいしく食べること。「食の向こう側」を少しずつ知って、小さな積み重ねを続けることは達成感もあるし、未来の「食」にもつながるはず。

―何より、おいしく楽しく食べることは、人生を豊かにしますね。食べることを決してないがしろにせず、生活における『食』の位置を高めたい。私はそのために、これからも発信し続けるつもりです。―

これは、2011年に『月刊ベターホーム』誌上で語られた近藤さんの言葉。8年経った今も、その思いは変わらない。

「コミュニティスクール(CS)・まちデザイン」のテーマは、“食と農と地域をつなぐ”。事務所を置く東京経堂の生活クラブ館の屋上は、稲やススキが揺れる緑のスペースになっている。
「まちデザイン市民講座」の講座内容と申し込みは、CS・まちデザインのホームページから http://cs-machi.com/ ※外部のウェブサイトにつながります
近藤さんの著書・共著。オリジナルの食育プログラムを紹介した『わたしと地球がつながる食農共育』(コモンズ)は、近々に改訂版が出る予定。

 

撮影/ノザワヒロミチ 文/長井亜弓

※当ページのコンテンツは、ベターホームのお料理教室の受講生の方のための会報誌「Betterhome Journal」2019年11月号掲載の内容を、Web記事として再掲したものです。

ベターホームのお料理教室の受講生向け会報誌「Betterhome Journal」

「おいしいって、しあわせなこと。」をキャッチフレーズに、 料理レシピや食についての情報を掲載しています。2019年11月号の特集は「北欧のクリスマスにあこがれて」。クリスマスに北欧気分を味わえる料理をスウェーデンのクリスマスのようすと一緒に紹介します。

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